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丸見え
「顔を突っ込んでみてわかったんですが、部屋の構造が違います。だから明らかに場所が違います」
「ほほぉ、なるほど……」
「あの、お名前を教えてもらえますか」
「なんだと思いますか」ジュリエットは腕組みをした。
「そんなもの当てられるはずがありません」
「ユカノアンナです」
「ジョークですか?」
「違います。まさにフローリングの床に野原のノに杏に奈良のナで、床野杏奈です」
「杏奈さん、僕はいま穴に頭を突っ込んで話をしています。頭に血が上るので、できたらベッドで仰向けになってくれませんか。その方が対面になって話しやすいです」
ちょっと迷った杏奈さんはベッドに横になった。あぁ眩しいほどに白い太腿……が、すぐにタオルケットに覆われた。
「杏奈さん、ここはですね、下高井戸です。ほら、京王線と世田谷線のある。そちらは?」
「教えられません」
「あの……部屋の中が丸見えなんですよ」
「丸見えという表現はとてつもなくいやらしいです」
「見えています」
「小田急線の新百合ヶ丘です」
潔い。
「一度会ってみませんか? あ、僕は二十三歳の会社員です。建設会社です」
「ナンパですか? それとも謎の探求のためですか?」
「もちろん後者です」
あまり意味はなさそうだが、その夜、ベッドの位置が少しずれていた。
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