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「え、俺が知ってる人?」
「ああ、そうだな」
「えっ、誰!?」
「……さぁ?」
「さぁって、教えてくれよ」
「秘密」
俺はムスッとすると、立ち上がって、目黒の隣の自分の椅子に座った。目黒は相変わらず遠い場所を眺めているようで、一体どこを見ているのかが気になるくらいだ。俺は目黒の視線を追って、それを確認した時、勢いよく目黒を見た。目黒は俺の視線に気づいて「何?」と言うと、頭の後ろで腕を組む。
「……ごめん」
「何が?」
「……目黒は、親友が自分と同じ人を好きだったら、どうする?」
俺は恐る恐る聞くと、目黒が相変わらずのポーカーフェイスで考え込んだ。内心、俺の質問にどう思っているのかが分からない。でも、俺の意図には気づいているはずだ。目黒の視線の先には笑顔の吉野がいた。茅島ではなく、吉野のことを見ていた。俺はその意味を痛いぐらいに知っている。
「譲るよ」
「……っ」
「でも、それは10代まで」
目黒が椅子から立ち上がると、椅子を仕舞い、俺を見下ろした。俺はきょとんとした顔をすると、目黒がフッと笑う。
「大人になったら、例え親友でも奪いに行く。協力を仰がれても、協力をしつつ、心の片隅で奪う計画を立てる」
俺はじっと目黒を見ると、目黒が俺から視線を反らし、その大きな背中に吸い込まれそうになった。
「一番の嘘つきは俺ってことだな。悪く思わないでくれよ、瀬戸」
それから目黒は吉野の方へと向かって歩くと、俺は思わず椅子から落ちそうになった。
恋心というものは、ふわふわしているものだ。だがこの恋は決してふわふわなんか、していない。
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