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 「なぁ、吉野(よしの)」と声を掛ければいつでも俺が吉野の笑顔で迎えてくれる。とは限らない。笑顔で迎えてくれる時もあれば、真顔で迎える時もあるし、タイミングが悪ければ怒られることもある。でも基本的に吉野は優しいし、温厚だし、怒ることは滅多にないから、笑顔か真顔かの二択だ。 「なぁ、吉野」 「ん?」  吉野が振り返ると、俺を見てニコニコと笑っている。その笑顔を見て、俺の心はふわふわした気分になった。吉野美織(みおり)は、俺と同期入社の社員であり、俺と同じ部署に配属された仕事仲間だ。  今年で入社3年目になる俺たちの仲は良好だ。たまに喧嘩はするけれど、すぐに仲直りするし、2人で飲みに行ったりもする。タイミングが合えば、休日を一緒に過ごしたりもする。休日を一緒に過ごす場合は、仲が良いメンバーで集まるから、決して二人っきりでは無いけれど。だが俺は別にそれでも良かった。 「どうかした?」  吉野は俺にくるりと椅子を回転させて体を向けると、俺は近くの椅子に座り、吉野に近づく。 「実はさ、吉野に折り入って相談があって」 「相談? 瀬戸(せと)が私になんて珍しいね。いつもは目黒(めぐろ)なのに」  俺は苦笑いを浮かべると、視界の端でぼーっとしている目黒を見る。目黒優弥(ゆうや)は、俺と同期であり俺の親友だ。黒縁メガネに短髪のイケメン、高身長で仕事も出来るエリートであることから、女子社員からの人気をかなり高い。本来なら目黒に相談をしているが、今回はそれはどうしても
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