124人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後、惟晴が花束を持って健の見舞いに訪れた。
健は初めて見る、水島家の中で唯一の味方である、弥之の従兄弟に笑顔を向けた。
「事件が起きてすぐ鵜飼さんから連絡をもらった時は、本当に心臓が止まるほど驚いたよ」
健の病室に駆けつけた惟晴は、健の顔を見てホッと胸を撫で下ろした。
本当はもっと早くに見舞いに訪れたかったが、大知から健がICUにいる事を聞いて、一般病棟に移るまで待っていたのだった。
「ご心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした。やっと惟晴さんと会えたのにこんな姿で」
リクライニングにしているベッドに寄りかかりながら、健は惟晴に頭を下げた。
「でも、本当に良かった。弥之さんと雛絵さんの事は、鵜飼さんに聞くまで真実を知ることもできなかったし。君が生きていてくれて本当に良かった」
ベッドの横のチェアに腰掛けて、惟晴は健を見つめる。
「その事では謝らないといけませんね。大知が俺の代わりに失礼な事を言ったと思います。すみませんでした」
「ああ、それはその場で解決したから。しかし、まさか君が特殊な血液型だとは思いもしなかった。ずいぶん苦しんだだろうね」
健がボンベイ型だと知った時は、どうして健だけが苦しむのかと惟晴は行き場のない怒りを感じた。
「……真実をずっと知りたいと思ってました。父と母を俺は疑った。親不孝の息子でした」
「そんな事はないよ!誰だって誤解する事はあるんだ!ただ今回は、重大な事件に巻き込まれて、真実を知ることになった事が唯一悔やまれるよ」
もしかしたら、命を落としていたかも知れなかったのだ。
「でも両親が守ってくれたんだと思っています」
「そうだよ。君は弥之さんと雛絵さんに愛されて育っていたんだから」
健は強く頷いた。
「あの頃、もっと僕が2人の力になってあげられたら良かった」
当時、まだ若かった惟晴に出来ることは正直何もなかった。
弥之が家を捨てる覚悟で雛絵と結婚した以上、弥之と雛絵が、分家の惟晴と交流を持つ機会も無かったのだから。
「いいえ。惟晴さんはこうして俺に会いに来てくれた。それだけで充分です。聞かせてください。父と母が若かった頃の事を。俺が知らない、2人が幸せだった時間を教えてください」
健が再び頭を下げると、惟晴は泣きそうになり顔を歪めながら微笑む。
弥之と雛絵にできなかった事を、健と静真にはしていきたいと思った。
「ああ。これからたっぷり聞かせるよ。何時間でも、何日でも、何年でも。僕達は、これからもずっと離れない。弥之さんと同じ血が流れている同士なんだから」
健は惟晴の顔を見つめ微笑む。
「はい。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、これからもよろしく」
惟晴は再会を約束して、その日は病院を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!