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数日後、惟晴が花束を持って健の見舞いに訪れた。 健は初めて見る、水島家の中で唯一の味方である、弥之の従兄弟に笑顔を向けた。 「事件が起きてすぐ鵜飼さんから連絡をもらった時は、本当に心臓が止まるほど驚いたよ」 健の病室に駆けつけた惟晴は、健の顔を見てホッと胸を撫で下ろした。 本当はもっと早くに見舞いに訪れたかったが、大知から健がICUにいる事を聞いて、一般病棟に移るまで待っていたのだった。 「ご心配をおかけして本当に申し訳ありませんでした。やっと惟晴さんと会えたのにこんな姿で」 リクライニングにしているベッドに寄りかかりながら、健は惟晴に頭を下げた。 「でも、本当に良かった。弥之さんと雛絵さんの事は、鵜飼さんに聞くまで真実を知ることもできなかったし。君が生きていてくれて本当に良かった」 ベッドの横のチェアに腰掛けて、惟晴は健を見つめる。 「その事では謝らないといけませんね。大知が俺の代わりに失礼な事を言ったと思います。すみませんでした」 「ああ、それはその場で解決したから。しかし、まさか君が特殊な血液型だとは思いもしなかった。ずいぶん苦しんだだろうね」 健がボンベイ型だと知った時は、どうして健だけが苦しむのかと惟晴は行き場のない怒りを感じた。 「……真実をずっと知りたいと思ってました。父と母を俺は疑った。親不孝の息子でした」 「そんな事はないよ!誰だって誤解する事はあるんだ!ただ今回は、重大な事件に巻き込まれて、真実を知ることになった事が唯一悔やまれるよ」 もしかしたら、命を落としていたかも知れなかったのだ。 「でも両親が守ってくれたんだと思っています」 「そうだよ。君は弥之さんと雛絵さんに愛されて育っていたんだから」 健は強く頷いた。 「あの頃、もっと僕が2人の力になってあげられたら良かった」 当時、まだ若かった惟晴に出来ることは正直何もなかった。 弥之が家を捨てる覚悟で雛絵と結婚した以上、弥之と雛絵が、分家の惟晴と交流を持つ機会も無かったのだから。 「いいえ。惟晴さんはこうして俺に会いに来てくれた。それだけで充分です。聞かせてください。父と母が若かった頃の事を。俺が知らない、2人が幸せだった時間を教えてください」 健が再び頭を下げると、惟晴は泣きそうになり顔を歪めながら微笑む。 弥之と雛絵にできなかった事を、健と静真にはしていきたいと思った。 「ああ。これからたっぷり聞かせるよ。何時間でも、何日でも、何年でも。僕達は、これからもずっと離れない。弥之さんと同じ血が流れている同士なんだから」 健は惟晴の顔を見つめ微笑む。 「はい。これからもよろしくお願いします」 「こちらこそ、これからもよろしく」 惟晴は再会を約束して、その日は病院を後にした。
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