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バタバタと走り寄って来る足音に、健と深海は振り返った。 「すみません、もう一度お話を伺っても良いですか?」 年配の刑事が健達に声をかけた。 「ええ、どうしました?」 深海が疲れているのが分かっているので、健は手短に話を終えて欲しかった。 「先程の、被害者の最後の言葉なんですが」 刑事は慎重に尋ねる。 「被害者が齧ったと言ったんですよね?」 なぜ念を押すのか分からないまま深海は頷いた。 「噛んだ。ではなく、齧った。ですね?」 噛み付いたと齧ったでは、確かに微妙にニュアンスが違う。 しかし、なぜ警察はそれが引っ掛かるのか、健と深海は意味が分からない。 「確かに彼は齧ったと言って、そのまま意識が無くなりました」 刑事は深海の証言に、確信を得た顔をする。 「どういう事ですか?噛んだと齧ったでは言い方の問題ですよね」 健は刑事の様子が気になる。 「実は、かじったは、ここ、伊豆の方言なんですよ。この辺りでは、かじったと言うのは、引っ掻いた事を言うんです」 意外な言葉に、健も深海も驚いた。 確かに、齧ったと聞いた時には少し違和感があったが、噛み付いたんだと直ぐに想像ができ、別にそれで意味が通じなかったわけではない。 「お2人の証言を聞いて、東京の方と言う先入観から気がつくのが遅くなりました」 最初に話を聞いた若い刑事は、齧ったと言う方言をあまり使う事がなかったのだろうと健は察した。 「では、桑畑さんの腕の傷は!」 齧り付いたのではなく、引っ掻いたと言う事なら、もし桑畑の腕に擦過傷があるならば、石塚が付けたと言う可能性がある訳だ。 「お2人の証言の後、桑畑の腕の確認をした者から、齧った痕は無かったのですが引っ掻き傷があった様です。おそらく、被害者が付けたものでしょう。まさか桑畑も、お二人が石塚さんの最後の言葉を聞いているとは思っていなかったんだと思います」 刑事のその言葉を聞いた瞬間、石塚の違和感が目に浮かび、健は全ての謎が繋がった。 「そうか……だから……」
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