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健がICUから一般病棟に移り、やっと大知の見舞いが解禁になった。
「よう。少しは元気になったか?」
「ああ。動くとまだ痛いが、何とか生きてる。俺を刺した事件はどうなった?」
菜々緒や犯人の逸郎のことが気掛かりで仕方なかった。
「犯人の疋田の件は警察が送検した。お前が回復次第、警察や検察の事情聴取があるだろう」
「仕方ないさ。って疋田は俺が庇った女性を監禁していた様だが?」
菜々緒から聞いた話を大知に確認する。
「ああ。疋田とは出会い系で知り合ったらしい。付き合っていた男、品川にパパ活と称して売春を強要されていたと言っている」
大知は、警視庁捜査一課の神城一成から、菜々緒の話を聞く事ができた。
「犯人との出会いは、事件前に少しだけ山内さんから聞いていた。品川との事は、その件で弁護士に動いてもらっている」
話が1つに繋がり、健はやっと頭の中が整理されていく。
「山内菜々緒も悪いんだ。いくら品川から脅迫されていたとはいえ、出会い系で知り合った男の家にノコノコと着いていったんだから」
確かに、それがこの事件の引き金になったのだ。
品川の魔の手からもっと早くに逃げていれば、逸郎とあんな出会い方をすることもなかったかもしれない。
「監禁され、逃げようにも外鍵まで掛けられて、部屋の中では両手を拘束されていたらしい」
初めて聞く話に、健は流石に逸郎のことを許せる気持ちにはなれない。
全て自分勝手な犯行だったからだ。
「かなりえげつないな。計画的に監禁したってことか」
大知は頷く。
「そんな生活の中で、山内さんも逃げる気力がなくなり、疋田の言いなりになるしかなかったのかな」
閉鎖された空間で、菜々緒はずっと自分が悪かったんだと思い込んでいたんだと健は思った。
「そうでもなかったかもしれない」
大知は健の考えを否定する。
「それは?その根拠は?」
なぜ大知がそう言い切るのか、何か決定的なことが有ったのか健は尋ねる。
「監禁されながらも、山内菜々緒に心境の変化があったのは、疋田の母親と会った時だと言った様だ。一人息子の婚約者という事で、かなり辛辣な扱いを受けたんだが、最後まで疋田は山内菜々緒の肩を持っていたらしい」
大知の説明を聞いても、だからと言って菜々緒が逸郎に好意を持つのは不自然だと健はしっくりこない。
もし有り得るとしたら、その生活の中で、菜々緒が真古登と逸郎を比べたとしたら、逸郎といる方が愛されている分、自分は幸せなのではと考えたのかと健は思った。
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