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「疋田の愛情に山内さんが絆されたということか?」
菜々緒の性格を全て知っているわけではないが、男に流されやすいのはこの事件で感じていた。
「……ただ本人から聞いただけなら、そういう解釈も有るかもしれないが……」
大知の言い方は、奥歯に物が挟まっているようだった。
「警察や検察の考えは、その変化については、ストックホルム症候群の疑いがあるそうだ」
健はストックホルム症候群と聞いてハッとする。
「ストックホルム症候群て、確か犯罪に巻き込まれた被害者が、犯人に同情的になったり好意的に接するってあれか?」
「ああ。山内菜々緒の言い分は、監禁された当時は確かに嫌悪感が酷かった様だが、一緒にいる時間が長くなるにつれて、付き合っていた男よりも優しい所が見えて来て、惹かれていったと言うそうだ。だが、その過ごした時間こそ、ストックホルム症候群に陥りやすくも有るのではと」
それで全ての辻褄が合う。
健はずっと思っていた違和感が消えていく様だった。
「付き合っていた男に無理矢理連れ戻されたが、本当は疋田の所にずっといたかったと、自分がいなくなったから疋田が事件を起こしたと、自分を責めて庇っている様だ」
「……確かに、蓮司が調べた様子や、静真の話では品川の方が最低な男だが、それでも疋田が犯した罪は償わなければならない」
菜々緒がどう言う精神状態かまだはっきりはしないが、菜々緒が逸郎を庇ったとしても、逸郎が犯した罪は殺人未遂なのだ。
簡単に償える罪ではない。
「そうだな。元々の原因は、疋田が監禁などしたからなのだから。もっと別の方法で、山内菜々緒を振り向かせる努力もできたはずだからな」
「ああ。でも山内さんは今回1番の被害者だ。マスコミに騒がれて、もうこれ以上傷付かなければ良いが」
菜々緒が男に対して流されやすいと思っていたが、それは菜々緒自身が男に対して依存していたんだと健は気がついた。
今回の事件があまりにも大きくなり、健は菜々緒の今後が気になるが、菜々緒は東京での暮らしを捨て、全てを清算し田舎へと帰ることを決めていた。
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