エピローグ

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エピローグ

退院してしばらくは自宅療養中だったが、どうしても溜まっている仕事が気になり、健はリモートで内部処理や会議に参加していた。 『何もそこまで仕事をしなくても良いんじゃないか?休める時は休んでおけ』 リモート会議で葵が言うと、会議に参加してる他の役員も笑う。 「よく言いますよ。私のデスクが書類の山だったのは知ってますよ。稟議書に目を通して決裁をして、どんどん部下へ指示を出さないと、何もせずに復帰したらデスクが埋もれて見えなくなる」 健の冗談を聞いて、その場がホッとしているのがよく分かる。 必要とされている事が健にも喜びだった。 『分かった。分かった。全く、少しは俺を頼ってくれよ』 「もちろん頼りにしてます、社長」 健と葵の掛け合いに場は和んだまま会議も終了した。 『健』 会議室に葵だけが残り、まだリモートは繋がったままだった。 「はい?」 『品川真古登の件だが、依願退職の処理が終わった』 健から頼まれた件を葵は報告する。 菜々緒の件で弁護士が動いた事で、真古登と別れた菜々緒は東京を離れ、真古登は借金の返済の目処も立たず、結局は実家を頼らざるおえなくなった。 借金の返済のために、退職金を不足なく受け取る方がいいと考え、真古登は依願退職を選んだ。 「そうですか。問題を起こされる前に退職して良かったです」 菜々緒の事を思えば腑に落ちない点は多々あるが、弁護士が介入した事で菜々緒への脅迫材料の画像も消され、2度と菜々緒に近づかないと言う念書も書かされている。 『なぁ、元気になったら一緒に墓参りに行くか』 「そうですね。やっと全て終わりましたから」 葵は立ち上がり大きな窓の前に立つと、健と繋がるパソコンに顔を向けた。 『そろそろさ、敬語やめてくれねーか?』 「あ……」 健は葵をいつも親父と呼び、敬語で接していた。 『俺達は親子だろ?』 全てが解決し、葵ももう健に遠慮してほしくない。 「……うん」 健はなんだかくすぐったくて仕方ない。 葵のことは、ずっと尊敬の対象でもあった。 『パパって呼んでも良いぞ』 ニヤニヤ葵は笑い、健は鼻で笑う。 「……父さん、ありがとう。俺、父さんに見つけてもらえて本当に良かった」 『ばぁか。親子なんだ。どこに離れていようと見つけ出すさ』 たとえ血が繋がっていなくても、葵の愛情に健は幼い頃から包まれていた。 『さて、俺はまだ仕事だ。お前はゆっくり休んでおけ』 「はい」 ネットが切れると、健はデスクから離れてベッドに横になった。 次に目を覚ます時も、またいつもの日常である事を願いながら。 完
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