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健がタクシー代を支払うと、先に外に出ていた深海は、太陽の光を遮る様に顔に手をかざして目的地の建物を見る。ここでも遠くに富士山が眺められた。
「写真より、やはり実物を見る方がよく分かるね。日当たりも実に良い。築50年ぐらいと聞いていたが、まだ家も使えそうじゃないか」
和風建築の建物は、古民家風の趣があった。
「でも古い作りですから、使いやすいように建て直したほうが奥様も喜ぶのでは?」
深海の後ろに健は立つ。
「そうだね。家内なりにプランがあるようだよ。暖炉が欲しいとか、庭にバラ園を作りたいとか、なんやかんや考えては楽しんでるよ」
都会ではあり得ない広い庭に、自家用車と不動産業者のステッカーが貼ってある車が止まっていて、健は深海を促しながら玄関に近付いた。
「もう不動産屋も来てるみたいですね。1度中に入らせてもらいましょう」
健が玄関のドアの横のチャイムを鳴らした。
返事がないので、チャイムの音が聞こえなかったのかと健は思い玄関を開ける。鍵はかかっていなかった。
「すみません、楜沢ですが。石塚さん、いますか?」
健が奥に向かって声を掛けたが、シンとして返事がない。
「奥に居るのかな?石塚さーん!」
再び今度はもう少し声を張り上げて、健は奥に向かって声を掛ける。
「うッ……ううッ」
低い呻き声が聞こえて、健は何かが起きたのかと不審に思い、玄関に上がると使い捨てスリッパを履いて中に入った。
廊下のすぐそばの引き戸を開けると、健は何か嫌な予感がして、後ろから付いてきた深海の前に腕を伸ばした。
「どうしたのかい?」
健の後ろで深海も何事かと思い健を見る。
リビングの奥の部屋から呻き声が聞こえ続け、健は深海にここにいる様に言い1人でその方向へ進んでいく。
「!」
そこには、頭から血を流している中年の男が2人、石塚と桑畑が和室に横たわっていた。
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