3/4
前へ
/206ページ
次へ
健がタクシー代を支払うと、先に外に出ていた深海は、太陽の光を遮る様に顔に手をかざして目的地の建物を見る。ここでも遠くに富士山が眺められた。 「写真より、やはり実物を見る方がよく分かるね。日当たりも実に良い。築50年ぐらいと聞いていたが、まだ家も使えそうじゃないか」 和風建築の建物は、古民家風の趣があった。 「でも古い作りですから、使いやすいように建て直したほうが奥様も喜ぶのでは?」 深海の後ろに健は立つ。 「そうだね。家内なりにプランがあるようだよ。暖炉が欲しいとか、庭にバラ園を作りたいとか、なんやかんや考えては楽しんでるよ」 都会ではあり得ない広い庭に、自家用車と不動産業者のステッカーが貼ってある車が止まっていて、健は深海を促しながら玄関に近付いた。 「もう不動産屋も来てるみたいですね。1度中に入らせてもらいましょう」 健が玄関のドアの横のチャイムを鳴らした。 返事がないので、チャイムの音が聞こえなかったのかと健は思い玄関を開ける。鍵はかかっていなかった。 「すみません、楜沢ですが。石塚さん、いますか?」 健が奥に向かって声を掛けたが、シンとして返事がない。   「奥に居るのかな?石塚さーん!」 再び今度はもう少し声を張り上げて、健は奥に向かって声を掛ける。 「うッ……ううッ」 低い呻き声が聞こえて、健は何かが起きたのかと不審に思い、玄関に上がると使い捨てスリッパを履いて中に入った。 廊下のすぐそばの引き戸を開けると、健は何か嫌な予感がして、後ろから付いてきた深海の前に腕を伸ばした。 「どうしたのかい?」 健の後ろで深海も何事かと思い健を見る。 リビングの奥の部屋から呻き声が聞こえ続け、健は深海にここにいる様に言い1人でその方向へ進んでいく。 「!」 そこには、頭から血を流している中年の男が2人、石塚と桑畑が和室に横たわっていた。
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!

124人が本棚に入れています
本棚に追加