リンリン

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リンリン

 「このお花たち、綺麗でございましょう?」 優しく掬い上げた花びらを俺の前でぐしゃぐしゃに握りつぶして、バラバラと俺の顔に掛ける。 俺は虚ろな瞳で見ることしかできへん。 「インパチェンスという花でございまして、花言葉は『目移りしないで』」 リュウは愛おしそうに俺を強く抱きしめる。 「ここはリンリンとわたくしだけの秘密の部屋。リンリンのためだけに作ったのでございますよ」 これであなたはわたくしのものと付け加えて耳元で囁かれた。 ここに来てから言われた言葉の中で、一番気持ちが悪くて吐きそうになった。  「出してくれ、俺のこと……ここであったことは誰にも言わんし、お前らのことを今後一切調べんから。約束するから、逃がしてくれや」 情けないが、ボロボロと泣く俺。 殺されてもいい。 こいつのもんになるのだけは生理的に無理やねん。 「出す? わたくしの愛の結晶を生み出してください ますの? 光栄でございます」 綺麗すぎる微笑みを浮かべるが、目が全く笑ってへん。 気持ち悪いし、気色悪いし、怖いし、全部イヤ。 「狂おしいほど愛おしい……リンリンはわたくしのお人形さんでごさいますえ」 うふふと笑い、俺の額にキスを落とすリュウ。 「違う……お、れは」 また視界が揺らぐ。 あかん、眠い。 「あら、もう眠ってしまいますの? 本当に手のかかるお人ですこと」 眠気に抵抗するために下唇を噛むも、トントンと背中を叩かれたら負けてまうな。 「次はご飯いたしましょう……おやすみなさいませ」 言ってることは甘いのに、やってることはえげつない。 「お前ら、狂っとるわ」 力を振り絞って言うと、悪い笑みを浮かべるリュウ。 「狂わせたのはあなたでございますよ、伊音スズさん」 うふっと笑う穏やかな声に抗うように低い声を出す。 「このやろう」 ショウには左目 タキには声 そして、リュウには全てか。 俺から始まって、俺で終わり。 無自覚で純粋な好意が強すぎると歪み、狂気へと変わる。 それが恋愛。 それが犯罪になりうることを忘れるなよ。 これを最後に俺は意識と全てを手放した。          <完>
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