ショウ

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ショウ

 ピチョン、ピチョンと雨雫のような音が聞こえてきた。 しかし、身体に付く感触はしない。 “雨漏りか……?” こんな些細なことまで推理してしまうのはもはや職業病だな。 まあ、伊達に刑事をやってないことだけはわかった。  目を覚ませば屋内だった。 周りには雑多に置かれた木材や機械がごろごろ。 内装も剥がれていたり、錆びていたりしてボロボロ。 使われなくなった廃工場ってとこか。 まぁ、人を殺すのには最適なとこではあるわ。 ほう、ここがトウパイの“作業場”な。  吊られているらしく、見晴らしはめっちゃええ。 しかも、めっちゃ静かやわ。 そりゃあそうか。 雨漏りの音が響くんやもんな。 「今のうちに逃げるか」 ちょうど誰もおらんようだし、さっさと……な? 両手を擦らせてみたら、ギーギーと音がして身体がゆっくり揺れた。 同時にチリチリと刺さる感触がしたから、なめされとらん麻縄で縛られとるってことか。 腕が千切れるくらい固い感じはしないから、痛みを我慢すれば外せるか………ん?痛い? 俺はぼんやりとしていた違和感にやっと気づいた。 腹から下の感覚がまったくないことに。 くっそ、局所麻酔か。 せやから、腕を解いた衝撃でそのまま落ちる。 痛みはないものの、動けんし、落差で気絶。 下手すると、死ぬわな。 まぁ、そうか。 「人生そう上手くはいかんわな」 俺は鼻で笑った。 「ハハッ……物分かりが良すぎてあかんわあ」 あ~あとため息を漏らしながら急に姿を現したのは黒髪ショートの男性だった。 現れたっていうたけど、下を向いたら普通におったわ。 そいつは少年のままで止まったかのようにキラキラした瞳で大きな前歯を見せて笑っとった。 あ、そいつは色付きメガネをしとるから、はっきりとは見えんけどイメージな。 「畑庄助(はたしょうすけ)……お前がショウだな」 俺は睨みつけて言い放つ。 「うへへへ、あったり~すご~い……さすが刑事さんだね」 嘗めたようにくふふと笑うショウにまた腹が立つ。 やっばり攫ったやつはこいつやったんや。 「ねぇ、いおとさんとか刑事さんとか呼ぶのめんどいからぁ、これからはスズちって呼ぶな?」 いや、急に友達感出すなや。 そして、ほのぼの感が漂ってきたわ。 「いや、スズちはないわ。お前センスないな」 たぶん、トウパイって名付けたのはもう1人の方やわ。 「ひどない!? めっちゃかわええと思ってたんやで?」 頬をぶうって言いながら膨らませるから、ますます幼児感が増す。 遺体からの見立てだと、冷静沈着で計画的な大人の女性の犯行が推測されてたんやけど、全然ちゃう。 ショウは血液内科の看護師が本業やから軽い聞き取りは病院でしてたんやけど、その時は見立て通りやった。 まあ、少し口調はほんわかしてたけど。 これがこいつの本性か。
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