タキ

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タキ

 尋常じゃない痛み、喉が千切れるかと思うくらいの悲鳴、けたたましいほどの狂った笑い声が響いた。 最後にドロッとした喪失感が襲ってきた。  「うわああああああ !」 俺は叫び声を上げて飛び起きた。 汗がボタボタ零れる。 あまりにもリアル感のある夢で気持ちが悪い。 荒い息を整えながら辺りを見回すと、ベッドの上やった。 服装はジャージだし、いつも着ているものと同じやったわ。 「ああ、夢か」 ぼんやりとした視界だったけど、少し安心した。 「どうしたん? 悪夢でも見た?」 間延びした上ずったような声にびっくりして、声の先を見る。 ふわふわパーマをかけた茶髪の顔が整った青年が本を持ちながらこっちを見とった。 「誰やお前」 椅子に座った青年の姿も声も見覚えがない。 「失礼な人やわ。 せっかく黙って寝かせてあげたのに、そんな目で睨まれるなんて俺っち損しちゃう」 プンとそっぽを向くところがまたショウに似ている。 「お前、ショウの兄貴か?」 なんか兄弟な感じがするわ。 「ほんまにアホなん? 全然ちゃうし!」 本が傷みそうなくらいに閉じて、机に叩きつけたそいつはのっそりと俺に近づいてきた。 こいつ、背も体つきも大きいな。 「神木多紀 (かみきたき) って言ったら、さすがにわかるやんな?」 ふふふと低い声を出して、目を細めた顔をしたこいつを見て、やっとわかった。  1つの家庭じゃなくてなぜか2つの家庭の一家全員を惨殺する殺人鬼がおった。 女も子供も関係ないし、必ずどっちかの家庭の首を1つ学校か会社に晒す平成最大の凶悪犯。 警察に声明文を送ってくるんやけど、そこに書かれた "タキ"とニコニコマークが頭の中で一致した。 「お前か!!」 俺は怒りが爆発した。 「気づくの遅いっすわ、あにさん。ほんまに警察ってアホやわ」 アハッハッハと高笑いをするから、もっと面白くないわ。 「『神のみぞ知るキラー』が目の前にいるってどういう気分?」 クスッて笑う顔がスマートでイヤやな。 あんな冷酷な殺し方をするやつがどこにでもいそうな青年なんて信じられん。 「じゃあさ、誰も知らないあの猟奇殺人鬼を捕まえられるってわかったら?」 タキは俺の前に両手を差し出した。 「俺がやったこと、全部ちゃんと話すから。捕まえてよ」 震える声で言って頭を下げるタキ。 俺は手が動くのを確認してから、そいつの手を 両手で掴むために前のめりになった。  「ほんっと……単細胞」 瞬時に両腕を捻られて、 背中を取られる。 クスッと笑ったと同時に骨が外れる音が聞こえて、うつ伏せの状態でべッドに突き飛ばされた。 あかん、右肩を脱臼させられてもうた。
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