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あにさん
「アヒャヒャヒャヒャ。左目も失って、利き手も使えなくなってかわいそう~アヒャヒャヒャヒャ」
狂ったように笑うタキをなんとか睨むが、脱臼の治し方も知らんし、捻っただけだと思ってた右手首は折られとるようでだらんと垂れとるだけ。
めっちゃ痛い。
そして今になって左側が白いもので覆われとることに気付いた。
夢は実際にショウに行われたもんやったんや。
やっと理解したら冷や汗が出てきた。
とにかくやれることをやるしかないな。
「お前とトウパイの閲係はなんや?」
何事もなかったようにタキはまた椅子に座り、くるくる回り始めた。
「すぐ本人に聞くのはあかんでしょ。とうとう推理まで放棄すんの?」
ふと馬鹿にするタキにムカついて、俺は歯ぎしりをする。
「俺のことがわかんないのにトウパイを捕まえようとしてたなんて、ほんとアホ」
急に目の前で止まってニヤリと笑う顔で俺は一回死んだ気がした。
「トウパイって名付けたのは俺。ドイツ語で『無感覚』って意味。あの子たちに殺し方もターゲットも指示していたのが俺。そして」
低い声で話すのを淡々と聞いていたのに、突然高い声を出して話を中断するからハッとすると、いつの間にかタキに抱きしめられていた。
あかん、痛みに気が散って注意力が散漫になっとる。
「伊音スズのことを教えたのも、俺♪」
胡坐をかいている足をズボン越しに撫でながら耳元でふふふと笑うからめっちゃ気色悪いわ。
でも、なぜか逃げたいのに逃げられへん。
「テレピ番組のカラオケ大会会出たことあるやんな? 妹さんのために」
俺はヒュッと息を変に吸った。
実の妹の綾菜 (あやな) は生まれつき腎臓が弱くて、とうとう腎臓移植をしなければ生きられないところまできてしまった。
俺は溺愛しとったし、その頃は歌しか取り柄がなかったから出たんや。
ドナー登録の呼びかけと賞金を治療費に充てるために。
結果は優勝。
お金は入ったし、運良くドナーも見つかって、綾菜は手術をした。
成功して今は旦那さんとささやかな幸せを感じながらのんびりしとるわ。
「合うやつ見つかって良かったね。それ、俺らのおかげやで」
首を撫でたタキは静かにキスを落とすから身震いをした。
「俺さ、あにさんの歌声に惚れてもうて。助けてあげようと思ってあの2人に声を掛けて始めたのがトウパイ。確かターゲットは歌手志望の少女だったな」
俺が……トウパイを生んだのか。
「じゃあその子の供養をしてあげようか。罪は償わなきゃあかんやんね?」
ベッドに押し倒され、首を思いっきり絞められる。
「うあ、あ……あ、あ!」
苦しくて顔を横に振って抵抗するが、タキは気味が悪いほどの高笑いを楽しそうにして力を強める。
「ええ声やね、もっと聞かせてよ」
興奮したように目を細めてニヤリと笑うタキ。
「俺には声をちょうだい …… ショウだけずるいよ」
タキはハッハッと棒読みで笑いながら絞るように締め付けてくるから叫ぶように喚く俺。
「ああ、シャウト大好き……もうたまらん」
俺はこのまま死ぬしかないんか。
「死にたない、死にたないわ」
息絶え絶えになりながら、なんとか言うた。
「地獄はこれからやで」
急に唇を塞がれた感覚を最後にプツンと意識を失った。
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