リュウ

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リュウ

 深い眠りに長い間いるようで、生きているのか死んでいるのかわからなくなってきた。 “俺、死んだのか?” ふわふわした意識で自分に問いかけた。 すると、世界が揺れ、声が聞こえてきよった。 “起きろ、スズ” ちょっと高い声に聞き覚えがあった。 そりゃあそうやろ、長い付き合いやからな。 “助かったんや、目を覚ましてくれ” その声は元相棒の灰崎課長や……間違いないな。 「はい、ざき?」 声は掠れとるものの、鼓膜が震える感覚がした。 ああ、生きとるわ。 ゆっくりと目を開いてみると、肢しい光で目の前のやつの顔がよく見えへん。 でも、顎が人より出とるので確信した。 「相変わらずしゃくれとるな」 俺は鼻で笑ったが、すごく嬉しかった。  「本当に相変わらず失礼なお方でございますね、あなたは」 そいつが口角を上げると、小さいホクロが見えた。 そんなのは灰崎にはない。 「今度は良い夢をご覧になられていたのですね。義眼の痛みもないようでよろしおすな」 おちゃらけた声ではんなりとしゃべるそいつは左目をグリグリといじっとる。 こげ茶の長い髪を真ん中で分けている紺色の着物を着ているやつがリュウ。 こいつが一番厄介で悪いやつやねん。 「山本竜人(やまもとりゅうと) ……お前がリュウやな」 確認しながら頭がボーッとしている感じが否めないからまた麻酔がかかってんのかと思うけど、意外と冷静。 ここに来てから情報のキャパオーバーやからショートしたかもしれんわ。  「ええ、そうどすえ。しかし、まだそんなこといい はる余裕がありますの?」 不敵に笑うリュウは俺の左類にさらりと触れた後、ゆっくりとべッドに仰向けに置いた。 不思議に思った俺は顔を左に向けると、ドアが目の前に現れた。 「そこのドアにはカギがかかっておりませんし、わたくしはなにもいたしませんえ。さあ、逃げておくんなまし」 煽る言い方もイヤやし、さっきから顔のそばにあるバラみたいな花とクローバーみたいな葉っぱがくすぐったいから身体を動かすことにする。 まずは払うために左手……だらんとしたまま。 さっきやられた右手も同じ。 足は両方一気に踏ん張ってみたが、全く動かん。 くそ、遠く感じる……もうあかんわ。 「あら、すんまへん。突き出てる枝は全部折っときましたの、忘れておりましたわ」 うふふと貴婦人のように笑うリュウはまた俺を抱きかかえ直した。
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