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 新しい派遣先は某アパレルブランドの百貨店紳士服売り場で販売員としての仕事だ。以前も百貨店販売員はやったことがあるが紳士服は今回が初めてだった。しかしスーツのお直し等、一人で承れるようになった頃にはあと1週間で契約終了という感じだ。せっかく仕事を教えたのに…という空気を店長からひしひしと感じるが知ったこっちゃない。契約は契約。  仕事を終え、今日もイヤホンからの声に疲れを癒されながらこの2ヶ月半、数回通うシティホテルへ向かう。 ♪~届けたい言葉集めて 縫い合わせて出来た歌ひと◯携えて   汚れてる野良猫にもいつしか優し◯なるユニバース~♪  少し前を歩くよくあるスーツ姿の男がすっと左に消えた。私も同じ場所で左に吸い込まれエレベーターで 「お疲れ様、綸。1週間ぶりか?」 「橋本マネージャーお疲れ様です…1週間かな…」  彼は私と手を繋いでエレベーターを降り慣れた手つきで部屋を開けると、扉を後ろ手で閉め私を後ろから抱きしめると耳を噛りながら聞く。 「シャワーする?」 「もちろん」 「一緒にいい?」 「嫌って言っても入ってくるくせに」  彼は館の社員で紳士服売り場のフロアマネージャーだ。そしてこの3ヶ月間だけの、デートもしなければ食事もしない、体を重ねるだけの男だ。
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