どうせ死ぬなら

1/2
前へ
/2ページ
次へ
とある高層ビルの最上階。 恨みを買われるようなアングラな仕事をしている彼と、恨みを買われるほど人とは接していない俺。 あまり感情を表に出さない彼の事を俺は余すことなく知っている。本当は情に厚く、優しくて、ベッドの上では素直で愛らしくなることも俺だけが知っている。 今日も普通の家より少し早めの5時の夕飯、食後のデザートには上司からたまたま貰った飴を舐めていたようだ。 飴を黙々と舐めていた甘党な彼は、突然怪訝な顔をしてすぐに飴を吐き出した。 何事かと思い、すぐさま彼に駆け寄ると彼の手は痙攣していた。 直後に外の廊下から大勢の足音。きっと彼の舐めていた飴に細工をした者やその仲間だろう。 彼は苦しそうに肩で息をしていた。 俺は彼が吐き出した飴を確認する。 しばらく飴と見つめあった後、何が入っていたか理解した俺は彼を連れてベランダへ出た。彼は普段から死因は他殺じゃなくて自殺がいいと言っていたのを覚えていたから。 ベランダの下があまり人通りのない道で良かった、と思った。きっと人が多くいる通りだったらこんなことは彼が許さないだろう。 関係の無い人を巻き込むのは彼も俺も嫌いだ。 そういえば彼は高い所が苦手だからマンションの最上階に住もうと言った時はものすごく反対してたな、なんて懐かしいことを思い出す。 ふと彼を見ると彼は珍しく泣いていた。 大丈夫、いつまでも2人でいよう。なんて言いながら、自分らしくないなと思ってふっと笑うと、泣いていた彼もふっと笑い、俺の目元の雫を震える指でそっと拭った。 その時の彼の微笑みは今までで1番美しく、そして儚かった。 俺と彼は、最期にこの残酷な世界との別れを祝って甘い甘いキスをした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加