イル

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イル

 微かに、玄関のドアが音を立てたのに気付いた。  気配を殺し、ゆっくりと入って来ているつもりではいるようだが、空気の静かな鳴動が、侵入者がいることを知らせてくれる。  俺は、息をひそめた。  大丈夫だ。  見つからない。  そもそも、ここは、相手からは「見えない」何せ、相手の「真上」に俺はいる。  だから。どんなに相手が俺の気配を感じていたとしても、そうやすやすとは見つからないはずだった。  本当ならば、もっと安全な場所に移動したいが、それはリスクが大きすぎた。  相手が家に入って来た瞬間、一歩でも動いたら、それは気配となって相手に伝わる。  そのことは、避けなければならないことだった。  そして、相手もまた同じ考えなのだろう。
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