今日もレイラは嘘をつく

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「お母さんがシャリオのお母さん、メルニーをイヤになった事はないわ。魔法使いの家に嫁いで魔法使いを産んでくれたんだもの」 「……」 「本当は15歳になったら教えるしきたりなんだけど。まあいいでしょ、シャリオとロックスは半年でいなくなっちゃうし」 「……? お母さん?」 「レイラ、魔法使いが王宮に招かれるのは何故だと思う?」 「え、それは。戦争で戦ったり、えーっと……国を豊かにする為に、働いてる……から? あれ? そういえば何してるんだろう」  魔法使いの噂は平民には届かない。一度王宮に行った魔法使いは帰ってこないからだ。こんな田舎より、都会である王都にいた方が生活も楽で充実しているに違いないと思っていた。 「魔法使いにはね、とても大切な役割があるのよ。戦争は鍛えあげた戦士が戦うもの。魔法使いは戦わないのよ、死なれたら困るもの。レイラ、この国が飢えることがないのは作物がよく育つから、適度に雨が降るから。何故都合よく作物が枯れないのだと思う?」 「え?」 「魔法の力で土を、水を守っているからよ。季節を調節して温かさと寒さがちゃんとまわっているのも、風車が止まることなく永遠に動くのも、火事も洪水も土砂崩れも疫病も何もないのは魔法使いの、魔法を、使っているからよ」 魔法を使う。魔法使いが魔法を使うのではなく、魔法使いの魔法を使う? レイラは混乱して母を見る。 「魔法はね、血液や臓器に貯蔵されている時が一番強い魔力なの。魔法を使うという事は外に排出される事。肉体から外に出た時半分以下に能力が落ちているわ。だから、その都度肉体から直接魔法を引っこ抜いていけば効率よく魔法が得られるの。そういうのがすべて国土、国を守る力となっているのよ」 引っこ抜く、の表現にレイラは少し寒気がした。恐る恐る聞いてみる。 「どう、やって? 魔法使いは、王宮に行ったら、どうなっちゃうの?」 「……。ねえ、レイラ。シャリオの事、本当は嫌いでしょ?」 「え」 「鬱陶しいわよね、勉強も運動も人並み以下なのに、魔法使いってだけで自分を聖人と思ってるみたいであちこちに首突っ込んで。でもその尻ぬぐいはいつもレイラよね。自分だってロックスの事好きなくせに、レイラも好きだからってちょっと勿体ぶって見せて。でも結局は付き合うのよ、自分が一番大事だもの。本当、メルニーそっくり、反吐が出る」 「……」 「メルニーが魔法使いの子を身ごもったってわかった時気が狂うかと思った。でもその後すぐ15歳になって魔法使いが王宮でどんな目にあってどんな事になるのか知ったら、魔法使いと結婚しなくて本当に良かったと思ったの。愛する人との間に授かった子供をそんな目に合わせるなんて冗談じゃないわ。もしレイラがその対象だったら、国に背いてでも貴方を連れて逃げ出していたでしょうね」 魔法使いに害をなす者は例外なく死刑だ。その反面魔法使い招集は国王の命令、拒んだ者は国家反逆罪として家族の処刑が決まっている。魔法使いは罪人として国に一生使役されると聞いたことがある。 「メルニーを心から尊敬して感謝しているの、魔法使いを産んでくれたんだから。余計な事起きてほしくないから、メルニーには誰も教えなかったんだけど。それを踏まえて教えるわね。魔法使いはね……」 母の話を聞きながら、その日は夜も更けていく。母は本当に楽しそうに語ってくれた。 魔法使いが、どんな事になるのか。
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