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「結局、僕じゃあんまり力になれなかったけど」
「そんなことない。一緒にいてくれるだけですごく心強かったよ。涼ちゃんはあの時からずっとあたしのヒーローだもん。涼ちゃんに会いたくてこの町に戻ってきたって、何度も言ってるでしょ。これからもずっと一緒にいられたらいいなって」
「うん、僕もそう思うよ。でもさ……」
「この町、結構いいと思うんだ。確かに流行りのスイーツもないし、おしゃれな服が売ってる店もないけどさ。のどかだし、空気はおいしいし。東京は確かに魅力的かもしれないけど、人も多いし、電車は常に満員だし、危ないことも多いし」
「でも、今危ない状況になってるよ……」
僕は両手をきつく握り締め、暗闇の中でうなだれた。何か手がかりをつかみたいのに、アザミが話しかけてくるせいでちっとも集中できない。
「ほら、アザミも見ただろ。あの見慣れない車。怪しいと思ったんだよ。絶対あいつだよ。あんな堂々と僕たちをさらったんなら、目撃者がいてもよさそうだけど……誰か、通報してくれたりしてないかな……っていうか、今何時なんだろう……」
ぶつぶつと口の中で唱えるようにつぶやいていたら、突如、後ろからアザミがぎゅうっと抱きついてきた。細い腕に似つかわしくない力で胃のあたりを圧迫され、思わずうっと吐きそうになる。
「ごめん涼ちゃん。あたし、嘘ついた」
「嘘?」
「危ないから行ってほしくない、っていうのは嘘。本当はね、東京にはかわいい女の子がいっぱいいるから、目移りされるのがこわいだけなの。離れたら、絶対涼ちゃんあたしのこと忘れる。きらいになる」
「だから、今はそんなこと言ってる場合じゃ」
「こっちの方が重要なの! だって涼ちゃん、最近あたしの顔全然見ないじゃん。再会した時はあんなに喜んでくれたのに、最近はずっと怯えるような顔してる。あたしが醜いから? あたしのこと、きらいになった? そうなんでしょ。だから東京に行きたいんでしょ」
「やめろって!」
僕は思い切りアザミの体を突き放した。
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