キルシウムの純愛

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「さっきから何なんだよ。今この瞬間にも犯人が来るかもしれないんだよ。殺されるかもしれないんだよ! そんなこと話してる場合じゃないだろ」 「来ないよ、犯人なんて」 「何でそう言い切れるんだよ」 僕はアザミの声が聞こえる方向に向かって大声で叫んだ。さっきから全然話が通じない。頭痛はどんどんひどくなるし、このままだと犯人が来ても来なくても、死ぬのは時間の問題だ。 一刻も早くここから出たい。早く、アザミから解放されたい。 「……ねぇ、涼ちゃん。チサトさんのこと覚えてる?」 「チサトさん?」 「あたしがこの町に戻ってくるまで、ずっと面倒見てくれてた親戚のおじさん。あたしがひとり暮らしを始めた時、涼ちゃんも一回だけ会ったことあるんだけど、覚えてない? 口は悪いし、ヤクザみたいなことしてるけどね、すっごくいい人なの。涼ちゃんのことを相談したら、すぐに力になってくれるって。涼ちゃんがあたしから離れないようにしてあげるって。それで、今日この町に来てくれたんだ」 「……何、言ってんの」 「秘密基地で遊んでた時のこと、ちゃんと覚えてる? ふたりでいっぱいいろんなものを持ち込んだよね。あたしはうさぎやねこのぬいぐるみ。涼ちゃんはボールやパズル、電車のおもちゃ。レールまで持ち込んで、ずっと走らせてたよね。ねぇ、覚えてる?」 はっとした。僕は慌てて先ほど手放したばかりのそれを手探りで見つけ出した。さっきより慎重に、記憶と照合させるように、ゆっくりと形を指でなぞっていく。四角くて細長いそれは、かつて僕がすきだった電車のおもちゃによく似ていた。 「ほら、これがうさぎのぬいぐるみ。ミミ、って名前つけてたんだよ。こっちが猫のキティで、あのくまはベル。ねぇ、覚えてる?」 「……待って。アザミ」 彼女の名前を呼びながら、僕は全身がかすかに震えていることに気がついた。さっきから、何かがおかしい。
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