妄想

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妄想

 彼は誰時にお会いしましょう。お顔は見えない方がいい。黄昏時にさよならしましょう。涙を見せたくないのです。夢を見るなら白昼に。朝日に邪魔をされたくない。上天気より篠突く雨が、なんだかわりと、お好きです。囂しいこの心音を、紛れさせてくれるから。あなたに触れられるそのたびに、欣幸の至りに堪えませぬ。  獰猛な愛が噛みついて、真っ赤な涙が滲み出て、その痛みすら愛しいと、感じるわたしは淫乱ですか。窓に白雪が擦れるたんびに、その白さを愛になぞらえて、ああ、確かにこの愛は、依存でも執着でもなく、清廉潔白であると、自身に言い聞かせるのです。こぼれた肌を、重ねた夜を、正しかったと言わせてほしい。そうしたらきっといつしか、小指と小指を絡め誓ったあの言葉を、本物に変えてくれるでしょう。     ――そんな、       妄                想           を、                    して、                             しまうの                           です。
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