名もなき星の歌

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名もなき星の歌

昨晩一つの星が死にました。誰もそのことに気づかなくって、みんなお酒を飲みながら夜空を見てる。今夜は星がきれいだね、なんて笑い合いながら、へたくそな歌を歌ってる。ぼくはそんな人たちを見て、笑いながら泣きました。ぼくが消えてもきっとこの人たちは、こんな風に過ごすのだろう。そう妄想して泣きました。もしも消えたのが月だったのなら、誰もがご冥福をお祈りしてくれるのに。名前のない惑星は消えたことにも気づかれないね。ぼくの死は匿名性です。ぱっと一瞬で消えてしまって、数字だけが残ります。こわいね。 ぼくは音楽を聴くのがすきです。たまにバイオリンを弾きます。曲だってたまには作ります。お母さんの作るカレーがすきです。小学校の頃は優秀でした。テストで100点を取ったこともありました。ぼくは今恋をしています。寝る前にはその子に向かっておやすみと言います。だいすきでだいすきで、でも思いを伝えられずに泣いています。ぼくが消えたらそういうこともすべてなかったことになるんでしょう。さみしいね。でもさみしいという思いすら消えてしまうのなら、本当はさみしくないのかもしれない。たとえぼくが死んだあとに彼女とのこっぱずかしいやりとりが出てきたってへたくそな曲が家族にばれたって赤裸々に書いた昔の日記を読まれたって、きっとぼくが消滅したら羞恥心すらなくなってしまう、だったら問題ないでしょう。 今夜も無数の星が死にました。みんなお酒を飲みながら夜空を見てます。 2020.4.1
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