切り札

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切り札

好き、という言葉は、最初の一回しか、意味を持たないように思います。二回、三回と回数を重ねると、その分、思いがどんどん薄まって、あなたに伝わらなくなっていくのです。 はたちになった今、わたしはそれを、雨に打たれるように感じています。大変遺憾ながら、幼い頃から一緒にいたせいで、好きと伝える機会は星の数ほどあって、ばかなわたしは何度も何度も、あなたに愛を伝えていましたね。家族愛のようでも、年上の友人のようにも、捉えられかねない「好き」をたくさん口走って、今ではもう、ちっともあなたに伝わっていないように思います。ありがとう、と目を細め、慈しむように髪を撫でる、その大きな手。その手がどうしようもなく、憎いのです。 ああ、もっと、もったいぶってやればよかったわ。あんな子供騙しの「好き」なんて、言わなければよかった。肌の美しさも、うなじの艶めかしさも、胸の膨らみも、足の長さも、じっくり熟れた今その時に、一生分の「好き」を伝えていたなら。そしたらきっと、きちんと意味が伝わったでしょう。ああ、あなたなんて何とも思っていないのよ、と、素っ気ないふりを十年以上続けて、その愛情は胸の奥の奥に、厳重に閉まっていたのなら、きっと意味を持ったでしょうに。 わたしは今、激しく後悔しているのです。きっとこんなことを言っても、何の意味も持たないでしょう。かわいらしい少女の戯言だと、いつものように髪を撫でるでしょう。お願いだから、やめてください。ガラスに触れるようにそっと、わたしの手を包まないで。わたしの奥の奥を探り当てるように、乱暴に、扱ってください。 でも、こんなことを伝えても、きっとあなたには届かない。ばかな子だね、と、逃げるようにごまかすのでしょう。だからね、わたし、今度生まれ変わったら、安売りなんてしないで、大事に大事に取っておくわ。美しく育ったその瞬間に、胸の奥に溜め込んだ愛を、思い切りあなたにぶつけるの。そうしたらきっと、伝わるでしょう。わたしがどんなにあなたを好きか。きっと、分かってくれるでしょう。
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