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よ 召
最大のピンチにして最高のチャンスだった。
目の前には美少女の顔。距離にして15cm。通常ありえない至近距離だ。
今まで女子と付き合ったことなどない俺としては、とてつもないデビュー戦だった。
彼女の名前は那須野麻衣。学年一の才媛であり、生徒会長だ。本来なら俺みたいな何のとりえもない不細工のかなう相手じゃない。
しかしそれでも俺はあきらめられなかった。一年以上前からゆっくりとゆっくりと、挨拶できるようになり、おしゃべりをするようになり、休み時間に宿題を教えてもらうようになり……。
そして、放課後の図書室で二人きりの時間をすごす関係にまでこぎつけていた。
今日も誰も居ない図書室でオススメの本を教えてもらっていた。上の方の棚の本を取ろうとして、麻衣はバランスを崩した。俺は彼女を支えるように抱きかかえ……。気がついたら俺達は、いわゆる「壁ドン」の体勢になっていた。あ、いや、壁じゃなくて本棚だから、「本棚ドン」か。
こうして俺は予期せず突然クライマックスシーンを迎えたのである。
心臓が飛び出すような勢いで高鳴っていた。
麻衣が頬を染めて、少しはにかんだ瞳で俺を見た。俺は思わず唾を飲み込んだ。
麻衣がゆっくりと目を閉じた。俺は少しずつ顔を近づけていった。喉がカラカラだった。
二人の唇が触れそうになった時、俺の足元に大穴が開き、俺はその穴をどこまでも落ちていった。
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