よ 召

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「田中くん、田中くん、大丈夫?」  揺さぶられて気がつくと、俺は図書室に戻っていた。床に仰向けになっていて、麻衣が必死で俺を揺さぶっている。  ……膝枕じゃ、ないんだね。  しかし変な夢だった。異世界で戦うなんて夢以外ありえないだろうに、妙に感覚がリアルだった。  1万発のパンチなんてそうそう打てるわけがない。最初の十数発目くらいでもう腕が上がらないくらいへとへとになっていたのに、身体が強制的に動くのだ。しかも猛スピードで。10000発殴るのにかかった時間は2分半くらい。1秒間に70発くらい殴っていた計算になる。いやもう、どこの世紀末救世主だよ。  最初の数秒で俺の身体はもうぼろぼろのグロッキーだったのに、何故か元気に動き回りパンチを繰り出す。もう地獄以上の苦痛だった。しかも、最後の「テヘペロ」演出。あれはいらんだろ全く。  夢の事はもう忘れよう。今は麻衣の事だけ考えればいいんだ。  俺は気を取り直して起き上がろうとした。  う、動かない……。  動かないぞ、身体が。  そういえば全身が悲鳴をあげている。特に、腕。まるでパンチを無理矢理10000発も打ったような……。  ……マジか。  あれは本当の事だったのか。  異世界転生は、本当にあったんだ。俺の身体のダメージがその証拠だ。俺が思ってたのとはだいぶ違うけど。  俺はあの美少女達とのハーレム生活を想像してみた……が、やっぱりこんなにしんどい思いはもうお断りだった。  翌日、俺は学校を休んだ。ってゆうか、筋肉痛で身体が動かせなかったと言う方が正しい。  午前中いっぱいは完全に行動不能だったが、昼を過ぎて夕方になる頃には少しずつ動けるようになってきた。 「よしおー! お客様よー! 那須野さんって方ー!」  母親の声が聞こえた。マジか。麻衣がとうとう俺の部屋に!  俺は慌てて飛び起きた。少なくとも気持ち的には飛び起きた。だが身体はついていける状態ではなく、中途半端に起き上がったところでバランスを崩し、ベッドから転げ落ちた。  が、床に激突する感覚はなかった。俺の身体は、無限に落下していった。
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