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「ただいま」といつも通り玄関で声を掛け、荷物を降ろし、洗面所で手洗いうがいをして顔を洗う。  急いで買い物した食料品を冷蔵庫に仕舞った。  片付け終わった頃に健治も手洗いを終えて洗面所から出てきた。 「コーヒーはパン屋さんで飲んだから、お茶入れるね」 「ん、ありがとう」  クナイ柄の湯呑茶碗に2つお茶を入れて、小さなトレーに乗せてダイニングテーブルに持って行く。  健治の前にコトリと置いて、自分の分も置いた。席に着くと緊張が走る。 「美緒、これに目を通してくれないか」  一枚の紙を差し出され、その紙に視線を落とすと、『離婚協議書』という文字が目に飛び込んで来た。  とうとう、この段階まで来たんだ……。  胸が、ギュッと詰まる感じがする。泣かないように唇を噛んだ。  子供も居なければ、持ち家でもない、共働きの私たちの間に分け合うものはいくらも無い。  いつか住宅購入のために2人で貯めていた貯金と家計費の余りを積み立てた物があるぐらいだ。  預貯金の財産分与と慰謝料、精算条項の三項目だ。  離婚協議書の慰謝料の欄の金額が空欄になっていた。 「慰謝料の金額は美緒が決めてくれていいと思っている。けれどそんな事を言うと美緒が要らないと言い出しそうだから、今の所300万円で考えている」  仕事を辞める健治から慰謝料を貰うのも気が引ける。でも健治は私の性格を見越して金額を提示している。   「もし、実効性に不安があるなら『離婚協議書』を『公正証書』に切り替えてもいい」 「そこまでしなくていい、健治の事、信じているよ」 「ありがとう。その言葉うれしいよ」
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