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Side美緒
涙が溢れそうになるのを必死におさえてサインをして、実際の離婚届けの用紙を見た時は、胸にくるものがあって、知らず知らずのうちに息を詰めていたみたい。
保証人の話が終わって、明日以降に話が持ち越しになって、思わず息を吐いた。
手元のクナイ柄の湯吞に視線を移すとこの湯呑を買った時の事を思い出す。
2人で旅行に行ったときに温かい風合いを気に入って、湯呑やお茶碗、中鉢、などたくさん買って、宅急便で送ってもらった。
家に届いた時のワクワクした気持ち。毎日使っていくうちの馴染んでいく感じ、こんな所にも何でもないけどチョットした幸せが残っている。
この湯吞も分け合うのかな。と思うと複雑な気持ちなった。
思い出の品物も分け合って2人分を1人分していく。
さみしいな
この言葉が心にポトリと落ちた。
「健治……」
「ん? どうした?」
「ごめん……何でもない」
「そうか……」
引き留める言葉を紡いだら、結局は同じ事を繰り返すのは分かっているのに、思わず言いそうになった。
「住むところを探さないとね。健治はどうするの?」
「俺は、仕事を探してからそこに合わせて、引っ越しする。契約もあるから2ヶ月ぐらいはココにいるかな」
「良い所に入れるといいね」
「俺も薬剤師の資格があるから何とでもなるし、知り合いにも聞いてみる」
「うん」と短い返事をした。
これ以上、何かを言うと弱い自分が健治に縋りつきそうだから……。
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