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玄関ドアをソッと閉めながら「ただいま」と小さめに言って、部屋に入った。
深夜0時手前の時間。もう、美緒は寝ているだろう。
リビングドアを開けると暗く、それでも少し前までそこにいた美緒の気配が残っている。
カバンからクリアファイルに挟まれた離婚届けを取り出し、テーブルの上に置いた。
保証人の欄に西川と新庄の名前が埋まっている、自分の名前を書き入れておいた方がいいか悩んだ。
「明日でいいよな」
美緒の事を思えば、1日でも早く離婚届を出した方が良いと思うのに、あさましくも引き伸ばそうとする俺がいる。
大学時代からの親しい友人の話に、ライフを擦り減らされた。
野々宮の事も美緒の事も知っている西川の話。
そうだよ。
俺は、最低な事をした。すべてを失うのも自業自得だ。
キツい言い方もしていても、俺にお灸を据えているつもりなんだ。
仕事を辞めると聞いて、次の仕事の心当たりを聞いておいてくれると言っていた。
キッチンに入って、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ゴクゴクッと一気に飲み干す。
酒に酔った頭が、スッキリしてくる。
ひと息付いてから、テーブルの上に置いた離婚届けに目をやり、ペンを用意した。
椅子に腰掛け、テーブルに向かうとその用紙に名前を書き入れ捺印をした。
力が抜けたように背もたれに身を預け、天井を見上げる。
「そうだよ。自業自得だ」
吐き出した言葉だけが虚しく溶けていった。
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