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「この書類、明日の提出でいいか? 提出したら野々宮成明氏に連絡を入れて離婚した事を伝えるから」
俺の言葉を受けて美緒が頷き、泣きはらした顔を上げた。
「ごめんね。泣いてばかりで、弱くて、甘ったれで、ごめんなさい」
ギュッと手を握り絞め、泣くのを必死に抑えながら謝っている。
美緒は、何も悪くないのに俺が追い詰めてしまったんだ。
「いや、俺が全部悪いんだ。本当にすまなかった」
「全部悪いなんて、言わないで……。私が、もっと強ければ……ごめんね」
美緒の瞳から、再び涙が頬を伝う。
美緒の涙を止めたくて、美緒の心を軽くしたくて、堪え切れずに立ち上がり、手を伸ばし抱きしめた。
涙で濡れた瞳をみつめ、そして、言葉を紡ぐ。
「泣き虫で甘ったれの所も可愛いと思っている。それに、美緒の優しさに甘えていたのは俺の方だ」
「健治に甘ったれて守られてばかりじゃなく、健治を守れるぐらいに強かったら、きっと違う明日になっていたはずなのに、ごめんなさい」
明日、離婚届けを出す。それとは違う明日。
「違うよ。俺が夫婦としての約束を守れなったのがいけなかったんだ。ごめん。悪かった。だから美緒のせいじゃないんだ」
それなのに、まだ、やり直せるとか他の道があるとか考えてしまう。
それは、美緒のためにならない。自分の我が儘だ。
自分の起こしてしまった問題が片付かないうちは側に居てはいけないんだ。
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