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「風呂のスイッチ押してくるよ」
そう言って、立ち上がった健治の背中に思わず手を伸ばした。
健治に縋りついてはいけないと頭で考えていたのに、心の中に寂しいが降り積もり、自分で自分の事を止められない。
健治の背中に顔を寄せ、腰に腕をまいた。
「美緒……」
健治が私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それでも、背中に抱きついたまま、腰に回した腕に力を込めた。
離婚届けも受理されて、もう夫婦ではなくなっているのに……。
だから、もう、甘えてはいけないのに自分を抑えられない。
「健治……ごめん……。でも……寂しい」
「美緒……腕を放して」
「イヤ!」
健治の腰に回した腕にギュッと力を込めた。
「腕……放して」
「イヤ!」
まるで子供のように駄々をこねていると自分でもわかっている。
けれど、健治の温もりを感じていたかった。
「美緒……放して」
「やだ……」
「背中から抱きしめられても、俺が美緒を抱きしめる事が出来ないんだ」
「健治……」
しがみつくように腰に回した腕の力を抜くと、健治が私の方に向き直り、私は健治の腕に抱きしめられ、健治の温もりを感じていた。
どうしよう。また、涙が溢れる。
私はまだ何も変わっていない。健治を支えるほど強くなっていないのに、この温もりを失いたく無い。
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