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Side健治
俺が立ち上がると美緒が俺の背中に身を寄せた。
腕が腰に巻き付き、背中に温もりを感じる。
「美緒……」
名前を呼んでもその腕には力が籠るばかりで解かれる様子はない。
離婚届けも受理されて、もう夫婦でないのに、
心が揺れる。
「健治……ごめん……。でも……寂しい」
美緒の思い詰めた声が聞こえる。
「美緒……腕を放して」
「イヤ!」
美緒は腰に回した腕にギュッと力を込めた。
突き放さなければいけないのに強く突き放せない。
「腕……放して」
「イヤ!」
何故なら、本当は別れたくない。手放したくなどなかった。
「美緒……放して」
「やだ……」
美緒の様子に戸惑いを覚えながら、今だけ、少しでも慰められたらそれで良いと思った。
「背中から抱きしめられても、俺が美緒を抱きしめる事が出来ないんだ」
「健治……」
俺の腰に回されていた腕から力が抜けた。美緒の方に向き直り、きつく抱きしめた。
今だけだから、抱きしめる事を許して欲しい。
腕の中に美緒がいる。
この温もりを忘れないでおこうと思った。
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