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ウインカーを立て、左折をすると裏門があり、その門を過ぎると緑原総合病院の従業員駐車場が広がる。社用車で来ているため、出入り口から少し離れた場所に駐車して、従業員通用口に向かった。入口に立っている守衛に声を掛け、名前と副院長と面会の約束がある事を告げると中に通された。
診察時間が終了し最低限の明りが点いた、人気の無い待合室を通り抜け奥まで進むと医院長室がある。
扉を軽くノックして「菅生です」と声を掛けると「どうぞ」と返事が聞こえ扉を開けた。
大きなオーク材の一枚板の机の向こうに背広姿の野々宮成明がいる。
「こんばんは、菅生さん」
イスから立ち上がった成明は、先日、会った時より少しやつれた様に見えた。
「こんばんは、お疲れ様です」
「ああ、本当に疲れたよ。そっちのソファーで話をしよう」
高級な黒い革張りの重厚感のある応接セットを示され、成明と向かい合わせに腰を下ろす。
成明は、ローテーブルの上にA4の封筒を差し出した。
「こちらを確認して頂きたい」
成明に言われてA4の封筒から中に入っているクリアファイルを取り出した。
ファイルの中の用紙には、” 誓約書 ”の文字が書かれ、
菅生健治様(以下「甲」という) 私、野々宮果歩(以下「乙」という)は、甲が菅生美緒(以下「丙」という)と婚姻関係である事を十分に知りながら、甲と乙は密会を重ね、乙は甲と丙につきまとい嫌がらせ行為を繰り返した。それによって、甲と丙の婚姻関係を破綻させ、甲に甚大な損害を与えた
こと(以下「本件」という)について……
から始まり、第1条から第10条まで項目が記載されていた。その中には、接近.誹謗中傷.連絡先(SNSを含む)の禁止とそれを破った時の違約金、こちらの連絡先の削除もあった。
婚姻関係破綻の余談金の支払いまであり、逆にこちらは、契約が守られている限り口外しないともあり、下の方に甲の氏名住所捺印、最後にの欄に乙の氏名と住所に野々宮果歩の署名があった。
これを強制執行認諾文言のついた公正証書(強制執行ができる)にするそうだ。
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