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* 「あの……このような事を私がお聞きするのは妙かも知れませんが、野々宮さんは果歩さんと婚姻関係を続けて行くおつもりですか?」  野々宮成明は、組んだ両手を顎に当て考え込むような仕草をした。  沈黙の時間が落ちる。  そして、おもむろに話しだした。 「以前、お話したように金銭的なしがらみも無くなったので、離婚に向けての環境は整いつつあります。私と果歩はお互い望まない結婚をした者同士で、結婚当初からすれ違いの暮らしが続いていたんです」  成明は、深く息を吐きだし言葉を続ける。  「私にとってこの5年は、長かった。来月理事会を開く運びになりました。その後、果歩と別れます」  前に成明から聞いた話では、親の借金で断れない結婚だったと言っていた。 結婚当初からすでに破綻していた生活。確かに5年は長く。望むものを手に入れてしまえば、そんな破綻した結婚生活などお荷物でしかない。   「わかりました。お話をして頂きありがとうございます。書類にサインさせていただきます」  誓約書は、同じ内容の紙が2部あり、一部を野々宮で、もう一部を俺が持つ形となった。  野々宮果歩が結婚した時は、俺たちは完全に別れていた。  果歩は果歩なりに結婚生活に向き合おうとしていたのだろうか。  病院を継げるような医者としか結婚が許されない環境だと言うのは、大学時代に付き合った当初から聞いている。    野々宮成明の様子から見て果歩との間に愛があったとは考えにくい。  昔は、あんなに話が通じない訳では無かった。あそこまで歪んでしまったのは、愛の無い結婚生活の結果なのかもしれない。  父親が医院長の座から追われ、離婚され、すべてを無くした野々宮果歩がこの先どういう行動に出るのだろう。  不安の種は消えない。              
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