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Side美緒  私を呼ぶ声の方向に視線を送ると、「なぜ⁉」と言う言葉しか出て来なかった。 「なんで、野々宮さんが……」  初夏の陽気だというのに真っ黒いコートをはおり、いつもは綺麗にお化粧をしている顔もノーメイクで唇の色も悪く、目の下にはクマがある。  いつも女王様然としていた瞳は、暗く揺らいでいた。   「菅生さん、いえ、もう、浅木さんになっているはずよね。どうしてココに居るのかしら?」  ドキドキと心臓が跳ねる。  この様子は、普通じゃない。  既にトラウマになっているのか、呼吸が苦しくなってきた。  でも、もう、泣いてばかりじゃない。  カバンの内ポケットに入っている。スマホを取り出し、震える手で110番緊急登録システムのアプリをタップしようとした。 「だから、どうしてココに居るのか聞いているのに、何スマホなんか弄っているのよ!」  野々宮果歩の金切り声が聞こえた。  バシッという音と共に左頬に衝撃と痛みを感じ、スマホが足元に落ちる。  私、殴られたんだ……。  口の中に鉄の味が広がる。  
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