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Side美緒
マンションから健治が飛び出して来て、私の名前を呼んだ。
その後に、野々宮果歩に話しかけ、気を引いてくれている。
野々宮果歩は私に背を向け健治に話しかけている。その隙にスマホを拾い上げた。さっき、殴られた時に落とした衝撃で画面にはヒビが入ってしまったけど、どうにか操作が出来そう。
ジリジリと後ろに下がって距離を取り、辺りを見回す。
閑静な住宅街の一角というのは聞こえがいいが、メイン道路から外れたこのあたりは土曜日の夕方だというのに人気もない。
さっき110番緊急登録システムのアプリをタップしようとした所で、野々宮果歩に殴られて落としてしまった。
もう一度アプリをタップして、チャット画面に『自宅前にストーカーが来た、殴られた、助けて』と入れる。
そして、動画画面を立ち上げた。画像が取れていなくても音声だけでも残ると思い、不自然に見えないように気を付けてスマホを野々宮果歩に向ける。
大学時代の野々宮果歩は、ここまで話が通じない人ではなかった。
サイコパス性の強い人は、遺伝の影響が強いらしい。かと言って、サイコパスの因子をもった人すべてが、犯罪行為に走るわけではなく、環境的ストレスが掛かった時に表に現れる。
きっと、野々宮果歩の場合は、自分の欲が満たされている時は、表面に現れず。欲求が満たされない状態になるとサイコパスの特性が姿を現す。
学生の頃は、『お金持ちで美人』というステータスで周りに人が居て、健治とも付き合っていて、ちやほやされていたから、愛されたいという欲求が満たされていたのだろう。
けれど、親の都合の結婚で、愛されたいという欲求が満たされず、我が儘に振舞えば振舞うほど、人が離れて、楽しかったころの記憶にしがみついている。
健治は、野々宮果歩にとって、楽しかった頃の象徴なんだ。
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