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Side美緒
警察官に引き渡されたはずの野々宮果歩が奇声を発し、健治に向かって手を振り下ろした。
健治が顔を歪めると切れた腕から血が滴り落ちるのが見える。
不安に駆られ、心臓がドクンと音を立てた。
警察官が野々宮果歩を後ろから引き倒し、暴れるその腕に手錠をかける。
それでも叫び続ける野々宮果歩が哀れに見えた。
「健治!」
思わず名前を叫んだ。
「美緒さん、タオルか、ハンカチある?」
三崎君の声にハッとして、かばんの中からハンドタオルとスカーフを取り出すと健治の腕を抑える三崎君に渡す。
「止血しますね」
と、三崎君は健治の腕にグッとスカーフを巻きつけた。
「そんなに深くないので、心配ないと思いますが、病院に掛かって診断書を取った方が良いです」
三崎君の言葉に安心して、泣かないって決めていたのに涙が溢れだした。
「美緒さんも頬が腫れているし、唇が切れていますね。やはり病院で診断書を取ってください」
「うん」と頷くと里美がハンカチを渡してくれて、涙を拭いた。
警察官が車に野々宮果歩を乗せている様子を確認した三崎君が、声を落として健治に話しかけた。
「菅生さん、怪我をする覚悟で煽っていたのは、気が付いています。俺が止めなかったらこんなもんじゃすまなかったはず。悲しむ人がいるのを忘れてそんなことをするなんて酷い人ですね」
三崎君が健治を怒るなんてと驚いていた。でも、本当のことだからもっと怒ってくれてもいいと思った。そして、健治が気まずそうな顔をして言い訳をする。
「お医者様が来ているのが見えたから多少の無茶は許されるかと……」
「俺は、内科医ですから腕が動かなくなっても直せません。無茶はダメです」
応援のパトカーや救急車が到着した。
サイレンの音を聞いて、不安そうな顔をした住人が家から出て来て人が集まり始めた。
三崎君が救急隊員と話をしている。私たちの怪我の具合を伝えてくれているのだろう。
その後、野々宮果歩を乗せたパトカーの方に行って、警察官とも話をしていた。
健治と私は、救急隊員の人に声をかけられ、救急車に乗り込んだ。
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