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不便だろうと思って何気なく口にした「手伝うよ」という言葉に健治が凄く驚いている。
いくら離婚届を出したからと言ってケンカ別れをした訳じゃない。怪我をしたから不便だろうと思って口にしたけど、健治にとって迷惑だったのかも……。と思うと気持ちが萎む。
「ごめん、ほら、まだ、引越しの準備もあるから、その間だけでもと思って……。居候させてもらっているし、私も顔が腫れちゃって2,3日は、あんまり外出したくないし、どうかなって、思っちゃっただけだから、余計な事を言ってごめんね」
焦ってしまって、言い訳ともつかない言葉を並べ立てた。
少し前までは夫婦で、怪我をした相手を手伝うなんて当たり前のことだったのに用紙一枚にサインしたか、しないかで、こんなにも立場が変わるんだと思うとやるせない気持ちになる。
ホッとする空間には、もう居てはいけないんだ。と思った。
急に居場所が無くなったようで、居たたまれなくなり立ち上がった。
すると、健治の声が聞こえる。
「いや、助かるよ」
「うん、なんでも言ってね。やっぱり、コップ持って来る」
胸の中がグチャグチャで、逃げるようにキッチンに移動した。
ビールグラスを取ろうと食器棚の扉を開けると、お気に入りのやちむんの湯呑茶碗が目に入る。
温かい風合いの想い出が詰まったやちむんの焼き物。
違う、自分の居場所は自分で作っていかないといけないんだ。
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