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Side健治
目が覚めるとカーテンの間から見える陽の強さで、ずいぶん眠ってしまったんだなと思った。
横にあるベッドは、空で一抹の寂しさを覚える。
左手をつかないように気を付けながら置き上がり、洗面所のドアを開けると髪にタオルを巻いた部屋着姿の美緒を見つける。
「おはよう、健治」
「おはよう、シャワー浴びたのか」
美緒から石鹼の柔らかい香りが漂っていた。
ただ、美緒の顔には、昨日、野々宮に殴られた跡が痛々しく残っている。
思わず手を伸ばし、そっと頬に触れた。
「顔、まだ痛いよな」
「お互いさま。健治も腕、まだ痛いよね。シャワー浴びたいでしょう。今、腕にビニール掛けてあげるね」
と朗らかに笑う。
「チョト待ってね」と俺の手から離れ、一旦、洗面所から出て戻って来た美緒の手にはビニール袋とサージカルテープとハサミが握られていて、それらを駆使して、腕にカバーがかけられた。
「ありがとう、助かる」
「後、大丈夫?」
「なんとか、やってみるよ」
「じゃ、私、ご飯作っているね」
美緒がキッチンに移動し、洗面所にひとりなった。右手だけで衣服を脱ぐのは意外と大変で、無意識のうちに左手が動いてしまう。
シャワーを浴びるのに濡れないように左手で上げて、頭や体を洗うのも大変な作業だった。
シャワーが終わり、濡れた頭や体をタオルで拭うが背中が上手く拭けずに、バスタオルをバサバサさせ適当に拭いた。ボクサーブリーフとハーフパンツをどうにか身に着け、バスタオルを首から掛けて、右手でゴシゴシと頭を拭きながら、リビングに向かった。
ドアをあけると部屋の中に、食欲をそそる香りが漂っている。
匂いを嗅いだら急にお腹が空いてきた。
「あー、お腹空いた」
リビングに入ってきた俺に気付いた美緒が声を上げる。
「もう、頭ビチャビチャ、背中も拭けていないよ。拭いてあげるからタオル貸して!」
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