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不安に駆られて、美緒に視線を向ける。
すると、美緒が佐々木弁護士に向かって口を開いた。
「もし、示談に応じたらどのようになるのでしょうか?」
「示談金として、慰謝料と治療費をすべて含んだ金額を菅生様と浅木様にご用意させていただきます」
「違います。お金ではなく、果歩さんが、私たちの生活に再び影響を及ぼさない事が重要なんです。今後、私たちに関わらないという約束が欲しいんです」
美緒の言葉に成明が答える。
「そうですね。誓約書をお渡して直ぐ、この様な事態になり不安になられるのは尤もだと思います。果歩は、検察の判断を待って地方の病院に入れる予定にしています。これに関しては、信じて下さいとしか言いようがありません。でも、必ず実行します」
俺は、成明の言葉を受けて、質問を投げ掛ける。
「野々宮さん。貴方が果歩さんと離婚手続きをされた場合、その約束が反故にされる可能性があるのでは?」
「いえ、系列の病院に入れ監視はつづけます。これ以上問題を起こされては……。今回の事も起訴されて裁判にでもなったら……」
”裁判にでもなったら……”と言葉を濁した成明。
裁判にでもなったら、副院長夫人のW不倫の末の刃傷沙汰は病院経営にも影響を及ぼすはずだ。野々宮の父親・重則の失脚だけではなく、今現在、果歩の夫である自身の足元も危うくなる。
別に、これ以上不幸な人を作りたい訳ではない。自分の生活の平穏を願っているだけだ。
もしも、裁判になって、W不倫の末の刃傷沙汰は面白おかしく取り上げるメディアもあるだろう。その場合、俺自身にも火の粉が降りかかる。離婚してひとりだからとムチャもしたが、美緒とやり直しが決まった今は、穏便に事態を終息させたい。
「今日は、すぐにお返事できません。一旦持ち帰り、浅木と相談してお返事いたします」
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