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Side美緒
「ただいま」と部屋に入り、明かりを点けた。
私の横で健治の「ただいま」の声が聞こえたから、「お帰りなさい」と言った。
リビングルーム
ダイニングテーブルもリビングソファーもなくなり、ラグマットだけが敷かれた部屋は、がらんと広く感じる。
引っ越し前で、調理器具も仕舞っているからお弁当を買ってきて、ラグマットの上にテーブル代わりにダンボール箱を置いて晩ごはんを食べていたら、
「貧乏くさいな」
と言って健治が笑うから私までつられて笑ってしまった。
「気持ちの問題だから、ピクニックみたいだねって思っておこうよ」
「そうだな、貴重な体験だな」
ご飯を食べ終わって、ペットボトルのお茶を飲みながら、気に掛かっていた事を口にした。
「ねえ、健治、野々宮果歩が不起訴になって、ご主人の言っていた通りに、地方の施設に入るとするでしょう」
「ああ」
「地方の病院に入るのって、もしかしたら服役するより辛いかも……って、思ったの」
「成明氏がどうするかは、俺らにはわからないから、気に病んでも仕方ないよ」
「そうだね、お任せしたんだしね。でも、あんなに綺麗だったのにやつれて、ショックだったんだ。病気って怖いなって改めて思った」
あの、「誰も愛してくれない」と叫んだ哀れな姿を思い出すと、気の毒で、私たちに関わり合いの無いところで、野々宮果歩も幸せに暮らせたらいいのにと思った。
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