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 引っ越し当日の木曜日。  どうにか荷物梱包が終わって、引っ越し業者が入った。積み上がったダンボールやベッドなどが次々と運び出され、こんなに広かったっけ?と思うほど、ガランとした部屋を不動産屋さんに引き渡した。  この部屋で、たくさん泣いたり、笑ったり色々な事があったなぁ。と思いながら部屋を出て、タクシーに乗った。  乗用車は、健治の腕のケガの抜糸が済んでから取りに来る予定。  引越し先のマンションの養生が済み、引っ越し屋さんが荷物や家具を入れると、足の踏み場もない程荷物でいっぱいになった部屋の窓から明るい陽射しが降り注ぐ。  荷物の山を見て、どこから手を付けていいのか途方に暮れてしまった。 「美緒、ちょっといい?」  リビングとキッチンを遮るカウンターの所にいる健治に呼ばれた。 「なに?」 「これに名前を入れて」  先日から準備していた婚姻届がカウンターの所に広げられている。  すでに、健治の署名捺印はされていて、保証人の欄に西川君と新庄君の署名捺印があった。  後は、私の名前を記入すれば、役所に提出できる。  離婚届を記載した時には、あれほど切なかったのに、今はフワフワした気持ちで名前を書き入れ、印鑑を押す。  すると、健治が私の左手を取り薬指に指輪を嵌め、その指にキスを落とした。  そして、私の頬に手を添えて、唇にもキスをする。 「美緒、ありがとう。もう2度と裏切らないと誓う」  胸がいっぱいになって、上手く言葉が出てこない。  だから、健治の首に腕を回し、自分からキスをした。  何度も短いキスをした。  まだまだ、大変な事が起こるかもしれないけど、たくさん話をして、ささやかな幸せを重ねて、明日に未来に繋げていく。  辛い事もいつか、「あんな事もあったね」なんて、やちむんの湯呑茶碗でお茶を飲みながら語り合う日が来るまで、何度も喧嘩をして、その度に仲直りをして、手を取り合っていく。  今日から、ここから、新しい明日をふたりで作っていく。  いつまでも……。 【終わり】        
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