瞳から消えたもの 

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 東北自動車道のインターチェンジを降りてから、さらに車を走らせる。国道だというのに暫く信号機さえ無い。ウインカーを立てて右に曲がると辛うじて舗装はされているものの、ガードレールもない九十九折(つづらお)りの道を進む。上るに連れ道幅も狭くなり、対向車が来たら譲りあうのも大変そうだ。  狭い山道を車で上り詰めたところにポツンと現れた建物は、高い塀に囲まれている。  門の前にまで車をつけるとモニターがそれを察知して、門が鈍い音を立てゆっくりと開き始めた。  徐行しながら車を進め建物の入り口前に付ける。車から降り立ち、建物を見上げると窓には格子が嵌っていた。  表向きには自殺の防止だが、1階の窓にまであるのは、防犯というより脱走防止のためだろう。 「聞いてはいたけれど、凄い所だな……」  インターフォンを押して、名前を告げるとカチリと施錠が外される音が聞こえ、自動で扉が開いた。    建物内に入ると左手に受付カウンターがあり、事務服に身を包み、髪を後ろに纏めた女性に声をかけられる。  その女性は抑揚のない声で「お入りください、ご案内いたします」と建物内に招き入れる。  声に従って足を進めた。  カウンターの上に置かれた受付票に住所氏名を書き入れ、その紙を事務服の女性に渡すと部屋番号が入ったカードキーを渡された。  それを受け取った後に、奥にあるエレベーターに乗り込み、開閉ボタンの下にある読取り機にカードキーを翳す。  操作パネルの階数ボタンは自動で5階が明るくなり、ドアが閉まる。 「受付でもらったカードキーを翳さないとエレベーターが動かない仕組みになっているのか、噂に違わず厳重だ」  思わず、ひとりごちる。  独特の浮遊感と共にエレベーターが動きチンという音が5階への到着を告げた。  足を踏み出した先の無機質な廊下にコツンコツンと自身の足音が響く。  それは、5年半前に緑原総合病院の医院長室に赴いた時を思い起こさせた。
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