瞳から消えたもの 

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 野々宮重則に面会して、間もなくのことだった。  入院中の父のお見舞いに緑原総合病院へ訪れ、病室の前まで来ると、中から楽しそうな笑い声が聞こえる。  誰か面会に来てくれているのだな、と思いながら軽くノックをしてドアを開いた。  野々宮重則と 若い女性が、父のベッドの脇に立っているのが見えた。 「先日は、お世話になりました。今日は、お忙しい中、お越し頂きありがとうございます」  と野々宮重則に挨拶をすると隣の女性が目に入る。  20代半ばの大人の艶を放ち、猫のような瞳と 抜群の スタイル で 全ての人を魅了するような 華やかな美しさを持っていた。  そして、鈴のような声が耳に響く。 「 あら、この方が おじ様 ご自慢の 息子さん ⁉ 初めまして、 野々宮 果歩です」  蠱惑的な瞳が、自分に向けられドキッとした。 「初めまして、長岡成明です」  軽く会釈した ところで野々宮重則が口を開く。 「どうだ、うちの娘は美人だろう。果歩、成明君は現在、市大病院に勤務だが、今度ウチの病院に来る事になっている、有望な眼科医だ」 「ふふっ、よろしく」  猫のような瞳を上目遣いにして、手を差し出され握手をもとめられる。初対面の女性、ましてや父親の恩人の娘に対して失礼な真似をできるはずも無く、戸惑いながら手を握り返した。 「こちらこそ、よろしくお願いします」   高級ブランドに身を固め、華やかな容姿に裏付けされた自信に満ちた振る舞い。今迄、自分が過ごしてきた中で、一番縁遠いタイプの野々宮果歩との出会いであった。  
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