瞳から消えたもの 

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 野々宮重徳の言葉に果歩が眉を上げ、少しイラついたように話し出した。 「あら、ずいぶんね。行き遅れるも何も私の結婚相手は、お父様達が連れて来た人じゃないと、ダメなんでしょう。それに私はお嫁に行くんじゃなくて、婿をもらうのよ。早く結婚させたいのなら、入り婿をしてくれる相手を連れて来てちょうだい」  野々宮果歩の言葉に重則が、一本取られたと笑い。俺に視線を向ける。 「成明君をウチの婿に貰おうかな」 と、重則が言うとみんなの視線が一斉に自分に集まり、背中に汗が伝う。 「また、ご冗談を。果歩さんのお相手に自分では力不足ですよ」 「入り婿になってくれたら自動的に緑原総合病院の跡継ぎになれるのだがな」  冗談かと思っていたのに、食い下がられて焦りが募る。 「いえ、それこそ自分では力不足ですよ。もっと、経営にも興味のある方でないと務まりません」    野々宮果歩が相手では、条件がたとえ良くても、結婚相手としては、価値観が違い過ぎる。  差し障りのないように言葉を選んで、この場を切り抜けるしかない。 「あら、緑原総合病院の跡継ぎになれるのに、それを蹴るなんて、そんなに私の事が嫌いなのかしら」 と、野々宮果歩の視線が俺に向けられ焦る。 「とんでもない。そんなことはありません。果歩さんには、自分よりももっとふさわしい方がいらっしゃると言う話です」 「……ふぅん。まっ、今日はいいわ。お父様、そろそろ失礼しましょう。おじ様もお疲れになってしまうわ」 「ああ、そうだな。そろそろ失礼しようか。長岡、また寄るからな」  野々宮重徳と果歩は、病室を後にした。  俺は、扉の付近でお見舞いのお礼を言いながらふたりを見送り、その姿が見えなくなるとホッと息をつく。  そして、父が斜めに寄りかかっているベッドの背もたれを直そうとベッドサイドに戻ると父が話し出した。 「なあ、成明……」  
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