瞳から消えたもの 

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「君のお父さん、長岡も喜んでくれると思うんだか」 「えっ⁉」 「お見舞いに、顔を出したら自分のせいで結婚をダメにしてしまって、息子に苦労ばかり掛けてすまないと気を落としていた。君が結婚すれば、肩の荷が下りるんじゃないのか?」  まさか、俺より先に父の所に行っているとは……  野々宮重則の話を聞いていて、緊張で手のひらにじんわりと汗をかいているのが自分でわかった。  先日、贖罪の言葉を吐きながら涙を流していた父の姿を思い出す。  小さくなった体で、すまないと何度も繰り返していた。  しかし……。 「私では、借金もありますし、果歩さんを幸せにする程の経済力がありません。やはり、力不足だと思います」 「あら、私のおこずかいぐらい。お父様が用意してくれるわ。貴方は、そんな事を心配しなくても大丈夫なのよ。ねっ。お父様」 「ああ、家政婦も用意する。果歩のこずかいも私が出そう。成明君は、病院運営を覚えてくれればいい。借金返済も考慮しよう」  ああ言えばこう言う状態で、俺の逃げ道を塞ぐ。  野々宮重則と果歩にとって、これは、既に決定事項なんだ。  結婚するからには、愛のある家庭を目指したいが、結婚してからも実家におこおずかいをねだる果歩を愛せるのだろうか? 家政婦も用意と言ったから炊事洗濯などするという発想もないのだろう。  価値観の違いは、不幸の元だと思うのだが、大丈夫なのだろうか?  
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