瞳から消えたもの 

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 断るすべを持たない俺は、野々宮果歩と結婚する事になる。  程なくして、野々宮家主導の元、イマドキにしては派手な結婚式が行われた。  望まぬ結婚とはいえ、バージンロードの向こうから野々宮重則にエスコートされて現れた果歩は、息を呑むほど綺麗だった。  マーメードドレスに身を包み、一歩、一歩、ゆっくりと足を進めて来るその姿は、上質な大人の美しさを醸し出している。  野々宮重則から自分へ果歩の手が移動し、賛美歌が聞こえた。  誓いの言葉を誓約し、指輪の交換の後、  祭壇の前でベールを持ち上げた時、美しい猫のような蠱惑的な瞳を向けられる。  形の良い唇に赤い口紅が艶めく、その唇に誓いのキスをした。  俺の腕を取りライスシャワーに向かう時もブーケトスの間も始終にこやかに微笑んで、出席した友人たちも口々に「綺麗な花嫁さんだな」と果歩を褒め称えていた。  披露宴も2次会もどうにか無事に済み。その夜、初めて、ホテルでふたりきりになった。  新婚旅行の前泊で披露宴会場のホテルのスィートルームが用意されていた。 窓から見える夜景も素晴らしく、落ち着いた色調の部屋も広い。天蓋付きのベッドルーム、リビングルームに応接室まである。こんな所に泊まる機会なんて、早々ある事じゃないのに2次会終わりの時間から明日の朝までの利用とは、もったいない気がした。  リビングのソファーセットでくつろぐ果歩に声を掛ける。 「おつかれさま。お風呂のお湯を入れて来るから先に入っていいよ」 「あら、一緒に入ってもいいわよ」 「えっ?」  驚くと、蠱惑的な瞳が俺を見ている。緊張する俺をよそに果歩がフッと表情を緩める。 「ふふっ、真面目なのね。いいわ、先にお風呂頂くわ」  また、果歩に揶揄われたのだ。   「……お風呂入れて来るよ」  
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