瞳から消えたもの 

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 確かに体の相性は良かったのだろう。  そのおかげか、心配していた結婚生活も大きなトラブルも無く3か月目を迎えていた。    そう、この日までは……。    その静寂は、一本の電話によって破られた。  仕事から帰ってきた部屋は暗かった。  果歩が居ようが、居まいが、通いの家政婦が部屋を片付け、冷蔵庫に夕飯を準備して置いてくれる。  外で好きにして家で機嫌を良くしてくれているなら、それでいいと思っていた。    部屋に入ると、家の電話が鳴り響いた。  正直、家の電話なんて、めったに鳴る事がない。大抵、携帯電話に掛かって来る。それが家の電話だなんて、何か緊急の連絡かと、慌ててチェストの上にある電話の受話器を持ち上げる。 「はい、野々宮です」 「あ、恐れ入ります。私、さくらウィメンズクリニックの水口と申しますが、野々宮果歩さんの日帰り手術の術後の貧血が酷いご様子なんですが、お迎えに来ていただけますか?」 「日帰り手術? 果歩がですか?」 「はい、ご主人は、お忙しいとお聞きしましたが、お迎えに来てください」 「……わかりました。場所はどちらでしょうか?」  場所を聞き出すと、急いで地下の駐車場に行き、車を走らせた。  緑原総合病院の娘である果歩が、わざわざ個人の婦人科で、日帰り手術を受けただなんて、嫌な予感しかない。  
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