瞳から消えたもの 

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 電話で聞いた住所をカーナビに入力、その案内に従って車を走らせた。  すると、裏路地にある小さな診療所にたどり着く。  その診療所のドアを開け、すでに診察時間が終わり中は薄暗く、無人の受付の所だけが明るくなっていた。  カウンターの所に置いてあるブザーを押すと、まだ若い看護師が顔を出す。 「すいません。先程、お電話を頂きました野々宮です。妻の果歩を迎えに来ました」 「あ、野々宮さんのご主人様ですね。お電話しました水口です。貧血が酷いご様子で、ウチは入院やっていないので、すいません」 「いえ、ご迷惑をお掛けしました。あの、つかぬ事をお伺いしますが、貧血の原因の手術は、人工中絶によるものなんですか?」 「あの、ご主人様の同意書もお預かりしておりますが、何か問題でも?」 「いえ……」  心の中で、やはりという、諦めに似た気持ちと自分の子供を相談も無しに殺されたという怒りが、渦巻く。  水口看護師が、奥の部屋のドアを開けた。  そこには、貧血で青い顔をした果歩が眠っていた。 「お会計等の手続きは、済んでいますか? 連れて帰っても大丈夫でしょうか?」  水口看護師に聞くと会計済で帰宅しても大丈夫だとの話。眠っている果歩を横に抱いて、水口看護師に手伝って貰い車の後部座席に運び入れる。  さすがに動かし過ぎたのか、果歩がモゾモゾ動き目を覚したようだ。 「家に帰るよ。貧血が辛いようなら緑原総合病院に行って、栄養剤の点滴でも受けるか、どうする?」 「はーっ、バレちゃったわね。家に帰るわ。お父様に知れたら一大事だもの」  
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