瞳から消えたもの 

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 家に帰り着き、まだ貧血状態でふらつく果歩をベッドに運んだ。  具合の悪い果歩を気遣う余裕も無く、果歩の顔を見ると気持ちが治まらず、不安な気持ちをぶつけるように問い掛けた。 「どうして、人工中絶なんてしたんだ。あの時、ピルを飲んでいると言っていたじゃないか。そうじゃなければ、緊急避妊用ピルを使うとか、体を傷つけない方法だってあった。それに結婚して子供が出来たら産むという選択があるんじゃないのか?」  果歩は、めんどくさそうにフーッと息を吐き出し言い放った。 「今更そんな事どうでもいいでしょう。それに、私は、まだ子供なんて欲しくないの。体形だってくずれるし、自由だってなくなるし、子供中心の生活なんて全然嬉しくないのよ。なんで、結婚したから子供を産まないといけないの? だいたい、あなただって、自分の子供かどうかわからない子供を押し付けられたら嫌でしょう?」   自分の子供かどうかわからない……。  価値観の差とか、そういうレベルではない。  貞操観念もなければ、誰かに愛情を傾ける事もない。  自分の自由を手放したくないだけでどうしてそんなに残酷な事ができるんだ。世の中には、授かりたくても授かれない人もいると言うのに、人としての何かが欠落している。  怒りで手が小刻みに震えている。それを抑えるようにグッと両手を合わせて握り、果歩に告げた。 「キミが処分してしまった子供は、俺の子供の可能性だってあったんだ。病床の父にだって、孫の顔を見せられるチャンスでもあったのに……。自分の子供が殺されるような事は……もう、ごめんだ。子供が要らないのであれば、セックスをする必要もない。俺は、2度とキミを抱かない。外で好きにすればいい。離婚したいのならキミからお義父さんに言ってくれ、跡継ぎとして、孫の顔も見せられずに至らぬ婿でした。すみません。と伝えて欲しい」  俺の言葉を聞いて、果歩はクッと笑った。 「なんで、そんなにムキになっているのかしら? 私たち体の相性は良かったでしょう? それにあなたは、お父様のお気に入りだもの。離婚理由を聞かれても困るし離婚する気もないわ」
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