瞳から消えたもの 

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 ぞわりと背筋に悪寒が走る。  自分の自由の前に、罪悪感すら抱かない果歩の感覚。  俺が怒っている意味も理解しようとしていない思考。  その日以来、寝室を別にし、ただの同居人として暮らし始める。  最初のうちは、俺が本気で言ったとは思わなかったようで、体調が戻ってからベッドにお誘いをかけて来ていたが、その度に拒絶を繰り返した。  もう、果歩に対して性的な魅力を感じることはなく、心が受付けることが出来ずにいた。  時折、顔を合わせると機嫌の良い時は、「あら、おひさしぶり」と挨拶をするが、機嫌が悪い時に当たると金切り声で「あんたみたいな、つまんない男、私が相手にするわけないじゃない」などと喚き散らし、心の病のに掛かり始めているのではないかと疑い、心療内科への受診を勧めるも余計に興奮させてしまうだけだった。  それでも、プライドの高い果歩は、俺に謝ることもなく、自由な暮らしを満喫している時は機嫌がよかった。  そして、父が孫を見る事も無く、冥府の門をくぐり、俺の肩の荷がひとつ下りる事となる。    それから4年半の日が経ち、借金返済がようやく終わろうとしていた。  緑原総合病院の老害とも言えるべき野々宮重則の行いにより、良い医師ほど、居心地の悪い医院となり果て、崩壊が見られる医局の立て直しとワンマン経営からの脱却を目指し、密かに根回しを進め、あと一息の所まで来ていた。  そんな時にアルゴファーマとの大規模な取引を始めると、医院長である野々宮重則が言い出した。  一瞬、裏金作りでもするのか?と、警戒をしたが、アルゴファーマの担当の菅生さんから、もらった見積もりは適正で悪いものでは無かった。  今まで、長年の付き合いとかで、見直しもしていなかったのだから、これを機会に見直して、付き合いとか学閥を抜きに適正価格での取引をして、健全な取引が出来れば良いと思っていた。    
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